ジェランガム
ジェランガムは、微生物(Sphingomonas elodea)発酵により産生される天然の多糖類です。ゲル化剤や安定剤として乳製品、植物性たんぱく飲料、ゼリー、キャンディ、ジャム、高齢者向け食品に利用されています。
ジェランガムは他の素材や塩類,ハイドロコロイドの存在下でも十分なゲル化機能を発揮します。これらと組み合わせることで食品や飲料に多様なテクスチャーを付与できます。
Pick up
ミディアムアシル型ジェランガム
ジェランガムは高温(80℃付近)でゲル化するハイアシル型(ネイティブ型)と、低温(35℃付近)かつカチオンの存在下でゲル化するローアシル型(脱アシル型)の2種類が主に利用されていました。
ハイアシル型ジェランガムは弾力性が高く口当たりの良いゲルをつくりますが、ゲル化する温度が高いため食品に利用する際には加工性や作業性に課題がありました。
この問題を解決すべく開発されたのが「ミディアムアシル型」のジェランガムです。本品は55~65℃でゲル化しますので、ハイアシル型ジェランガムの柔らかく弾力性のあるゲルという特性は残しつつも、温度が70℃に下がっても固まらないので加工性・作業性が大幅に向上しています。
用途
ジェランガムはゲル化材として幅広い食品に利用されています。ジャムやフィリングにボディ感や耐熱性を付与することもできます。
機能別用途
※表を左右にスワイプしてご覧ください
| 機能 | 効果 | 応用例 | 配合量 |
|---|---|---|---|
| ゲル化 | ゲル形成、テクスチャー改善 | フルーツデザート、ババロア、ゼリー | 0.15~0.2% |
| 増粘、安定 | ボディ感、耐熱性付与、テクスチャー改善 | ジャム、懸濁飲料、パン・パイ用フィリング | 0.12~0.3% |
| コーティング | フィルム形成 | 錠剤タイプの菓子 | 0.8~1.0% |
ほかにも、チョコレートソース、グミキャンディ、プロセスチーズ、多層ゼリー、嚥下補助食品、ソフトカプセルなどに利用されています。
安全性
ジェランガムは長年にわたり食品に使用され、安全性が認められている既存添加物です。国際的な安全性評価機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門委員会(JECFA)では1日摂取許容量の設定がないほど安全性が高いと評価されています。欧州食品安全機関(EFSA)や米国FDAも同様の結論を示しています。
ラインナップ
ハイアシル型(ネイティブ型)やローアシル型(脱アシル型)に加え、中間の性質を示すミディアムアシル型もラインナップしています。
※表を左右にスワイプしてご覧ください
| ジェランガムの種類 | 特性 | 用途例 |
|---|---|---|
| ハイアシル型 (ネイティブ型) |
ゲル化温度が高く、低濃度でも優れた分散安定性を示します | 植物性タンパク飲料、果汁飲料、酸性乳製品 |
| たんぱく質との反応性が低く、優れた懸濁能力があります | 乳製品 | |
| 少量で強固なゲルが作製できます | 嚥下補助食品、製菓製品、ジャム、フルーツ加工品、植物由来食品、アイスクリーム、ペットフード | |
| ミディアムアシル型 | ゲル化温度が低い(50~60℃)ため作業性が良く、得られるゲルは優れた熱安定性を示します | 嚥下補助食品、製菓製品、ジャム、ゼリー飲料、プロセスチーズ |
| ゲル化温度が低い(60~70℃)ため作業性が良く、得られるゲルは優れた熱安定性を示します | ||
| ローアシル型 (脱アシル型) |
透明性があり、優れた懸濁能力を持ちます | 懸濁飲料 |
| 中高程度のゲル強度、高い透明性があります | ゼリー飲料、製菓製品、ジャム、フルーツ加工品、植物由来食品、ペットフード |
特徴と性質
特徴
ジェランガムは糖が直鎖状に連なった構造を持ちます。糖は繰り返し配列を持ち、2つのD-グルコース残基、L-ラムノース残基、D-グルクロン酸残基の4糖で構成されます。
ジェランガムにはアシル基(-C=O)を多く含有するハイアシル型(ネイティブ型)と、アシル基の少ないローアシル型(脱アシル型)、中間の性質を持つミディアムアシル型があります。
ゲル化
ハイアシル型(ネイティブ型)は弾力が強くしなやかなゲル、ローアシル型(脱アシル型)は硬く崩れやすいゲル、ミディアムアシル型はその中間の物性を示すゲルが作製できます。
- ハイアシル型(ネイティブ型)ジェランガムのゲル化水に分散させ90℃まで加温して溶解した後に、80℃以下に冷却することによってゲル化します。得られたゲルは凍結・融解耐性、離水防止に優れます。
- ミディアムアシル型ジェランガムのゲル化水に分散させ90℃まで加温して溶解した後に、冷却することでゲル化します。ハイアシル型(ネイティブ型)に比べ低い温度(70~50℃)でゲル化するため作業性が向上します。得られたゲルは口当たりの良い優れた弾力性を示します。
- ローアシル型(脱アシル型)ジェランガムのゲル化水に分散させた後に85℃まで加温して溶解しカルシウムイオンやカリウムイオンなどのカチオンを加えよく混合します。これを35℃まで冷却すると、優れた耐熱性を示す、透明度の高いゲルが得られます。
| 種類 | 固さ | 弾力性 |
|---|---|---|
| ハイアシル型 (ネイティブ型) |
△ | ◎ |
| ミディアムアシル型 | ◯ | ◯ |
| ローアシル型 (脱アシル型) |
◎ | △ |
ゲル化温度の違い
種類によって冷却時のゲル化開始温度(▼)が異なります。
ゲルの耐熱性
ハイアシル型(ネイティブ型)は高温(▼)で融解しますが、ミディアムアシル型、ローアシル型(脱アシル型)は高い耐熱性を示します。
濃度とゲル強度の関係
ローアシル型(脱アシル型)ジェランガムでは濃度依存的にゲル強度が上昇し、剛直なゲルが得られます。一方ハイアシル型(ネイティブ型)、ミディアムアシル型ジェランガムは、高濃度でも柔らかく弾力のあるゲルをつくることができます。
製造方法
微生物(Sphingomonas elodea)を発酵させると、ジェランガムが産生されて培養液中に蓄積されます。アルコールを加えて脱水・洗浄し、乾燥、粉砕の工程を経て製品化されます。ミディアムアシル型およびローアシル型(脱アシル型)ジェランガムは脱アシル化工程を経ることで、アシル基の数を調整します。
ジェランガムの製造工程
※表を左右にスワイプしてご覧ください